林業・木材講座5 アメリカシロヒトリ

 市街地の並木や公園で発生する害虫で、農村部や森林には決して被害を起こさない。 田舎には住めない都会派害虫といえよう。
 原産地は北米で、日本には第二次大戦後アメリカ軍の資材にまぎれて侵入し、各地に生息域を拡大した。 最近は北海道の南部でも発生している。韓国や中国にも生息域を拡大している。

 岩手県では昭和41年に一関市で発見され、以来時々全県的な発生を繰り返している。 スズカケ、サクラ類、ナナカマドなど百種類以上の広葉樹の葉を加害するが、野草や野菜を食べることはない。

 幼虫は網を張った中に集団(写真1,2)で生息して食害を続けるが、成熟すると1匹づつに分散して(写真3)、 落葉や石などの隙間に潜り込んで蛹になる。
 年に2回発生し、蛹で越冬する。特に夏に発生したものは、樹木全体の葉を食い尽くしてしまい、 餌を求めて地上に降りた沢山の幼虫が道路や壁を集団で徘徊する(写真4)ので、住民に嫌われる。 毒は持っていない。

 被害木は、時に丸坊主にされる(写真6)ことはあるが、枯れてしまうことはなく、多くの場合翌年には正常に葉が出て花が咲く。 この虫も前号に書いたマイマイガと同様、樹木の害虫と言うよりは不快害虫と言えよう。

 森の中にはこの虫が好む広葉樹が沢山あるにもかかわらず発生しない。 その理由は、森には野鳥、クモ類、蜂、蝿、病気など多様な天敵が生息しているのに対し、市街地にはこれらが少ないためと言われている。

 被害の予防対策は極めて簡単で、6月頃及び8、9月に、街路樹や庭木などを丹念に観察して、幼虫の集団がついている数枚の葉を摘み取って袋に入れて廃棄すればよい。 しかし、多くの場合、虫が木全体に拡がってから薬剤を散布するのが実態である。

若齢幼虫
写真1 若齢幼虫
1枚の葉に網を張って集団する
中齢幼虫
写真2 中齢幼虫
網が次第に大きくなる
成虫♀
写真5 成虫 ♀
羽の長さ約1.5cmで全体が白い
成熟幼虫
写真3 成熟幼虫
分散して蛹化場所に移動する
徘徊する幼虫
写真4 徘徊する幼虫
葉を食い尽くすと集団で徘徊する
全体を食い尽くされた木
写真6 全葉を食い尽くされた木
左隣も同じ種類の木だが

(図・写真提供:佐藤平典氏 無断転載を禁じます)